ここ数年で、インターネットにある情報の作成と共有の方法は、世界のどこでも劇的に変わりました。多くの研究によると、インターネットの断片化と二極化が進むほど、読者はインターネットで読んだものを信じるかどうか、非常に大きな影響を受けています。若者がデジタル空間やフォーラムで見つけるコミュニティは、ほんの数年前には存在しなかったものです。私たちの目にするフィードには誤情報が溢れるあまり、中立的で信頼できる事実とはなにか、概念そのものが揺らぎはじめました。
このような状況に囲まれながらも、ウィキペディアは進化を重ねてインターネット上で最も信頼されるウェブサイトの一つに数えられ、スマートフォンでチャットGPTやSiriに尋ねたり何かを検索するたび、その主要な情報源はウィキペディアになりました。世間の人も、誰が信じても大丈夫で信頼に耐える知識を構築できる、これは誰もが知っておきたい重要な教訓です。
ほとんどの人がウィキペディアを利用しています。だからと言って、その仕組みを理解する人は多くありません。情報の信頼性を維持するシステムもあるし、毎日、毎時間、利用者が継続して更新し常に改善を重ねるのがウィキペディアなのです。
そこで今回のシリーズでは、インターネットを最も象徴するプラットフォームの1つとして、ウィキペディアではどんな方針や規則、システムや運用方法で成長を導いてきたか、ご紹介することにします。
上記で触れたシステムを活用するボランティア編集者は1日平均で数十万人、数百万人もいて構築・改善に取り組み、世界最大のオンライン百科事典として月間150億回以上のアクセスを誇るまでになりました。ボランティアの皆さんは力を尽くして偏見を防ぎ誤情報と戦い、紛争を解決し、ウィキペディアが知識の収集と共有に責任を担う場であり続けるよう協働しています。
以下でご紹介するのは、ウィキペディアにおけるコンテンツ作成の基盤となる多層的な保護、つまり読者が閲覧する情報の完全性をどう保証するか、当シリーズ第1号の記事としてまとめてあります。この記事を皮切りに、全ての保護の層を順に考察するシリーズを組む予定で、変化する世界ではこれが信頼できる情報だと合意を築くモデルとして、さらに掘り下げて考察していきます。
コンテンツの核となる方針
記事(ウィキペディアに載せる百科事典記事)の執筆には、まず最初に、3つの核となる方針があります。
- 視点が中立であること:ウィキペディアの記事は、偏った見方をできるだけ排除して情報を公正に示します。
- 検証できること:ウィキペディアに載せる情報は全て、公表されていて信頼できる情報源に基づき、読者の皆さん自身が確認できなければなりません。
- 独自研究ではないこと:ウィキペディアは個人の見解を発表したり、新しい解釈を披露する場ではありません — 信頼できる情報源にすでに公開されたものを要約して載せます。
これらを組み合わせて築いた一連の基準にしたがい、コンテンツすべてを統制していきます。編集者が複雑あるいは物議を呼ぶ主題を扱う際に交わされる議論では、どの情報源を利用したか、どのように公平に反映させるかを論じることがよくあります。時間が経過して新しい情報が利用できるようになると、記事は改善されて進化します。オンライン上の他の場所で見られる誤情報、抑制のないプロパガンダは、これら3つの方針で非常に効果的に予防できると証明されています。
記事と議論の透明性
ウィキペディアに載せる記事はどれも、それ専用のタイムマシンを備えています。ページ上部の「履歴」というタブ(ボタン)を押すと、それまでに加わった新旧の編集をそれぞれ確認でき — 誤字を1個修正したり大幅に書き換えたりなど — 知識が進化していく様子をリアルタイムで目撃できます。それと並行して、それぞれの記事に付いている「トークページ」というタブにはウィキペディアの方針を現場ごとに示してあります。編集者同士が対立しても、情報源の信頼性やウィキペディアの方針の解釈をめぐり合意を取り付けていく過程を誰にでも見えるようにしてありますから、その記事をもっと改善できる方法を知っている人なら、参加できるのです! これほど何もかも見える化するのは — 何を変えたのか、そのためにどんな人たちがどんなふうに力を出し合ったのか — これこそ、ウィキペディアが本当の意味で信頼できることの証拠です。
リアルタイムの評価と安全管理
ウィキペディアでは全ての人にツール類を提供、新規の編集が行われるとその場(Real-time )で確認ができます。新しい編集は加筆された瞬間にフィードに表示され — 不正行為や偏った意見、あるいは有害な内容を数秒で見つけようと世界中で常に目を配っているボランティアの皆さんが — それらに気づきます。ウィキペディアでは、不正行為は秒単位ではないとしても、通常、数分以内に差し戻しています。機械学習システムも、たとえば相手を傷づけようとする悪口など、深刻な問題に自動的に目印(フラッグ)をつけます。人と自動化された評価がともに有効だと、不正行為が見落とされる率は非常に低減します。
衝突の解決
編集者同士、コンテンツについて意見が異なる紛争が発生すると、体系的な解決手順で対応します。編集者は第三者の意見を求めたり、たとえば他のボランティア編集者などにも参加してもらったり、あるいは正式に意見募集をコミュニティに広く依頼することができます。これらの手順から協力と妥協の余地が生まれ — くずぶっている対立を明らかにして問題点を建設的に解決する方向へと転換するのに役立ちます。
管理者
ウィキペディアでは経験を積んだボランティア編輯者の皆さんが一般の編集者よりも踏み込んだ責任を任されていて — その人たちのことを「管理者」、欧文で「admins」(アドミン)と通称されます。管理者はコミュニティの選挙で決まり、必要に応じて仲裁のため次のような特定の技術を認められています。問題のある利用者アカウントのブロック措置、問題のあるページの削除、コンテンツと行動の両面に関して方針を施すこと。一般に問題解決は編集者同士が協力して進めるものの、それでも紛争解決ができない場合、管理者はウィキペディアの円滑な運営を保つため、権限と信頼のバランスを取り措置します。
記事の保護
ほとんどの記事は誰でも編集可能であり、ただし不正行為(荒らし)や妨害が繰り返された場合には一時的に、改版できる利用者を保護ツールを使って制限できます。これは通常、ページを更新できるのは経験を積んだ編集者限定であると意味し、新しい編集の公開前にスペースを用意して思慮深く議論し合意形成を行います。たとえば英語版ウィキペディアの拡張保護方針によると、最短で活動が30日、編集履歴500件の編集者は、保護されたページを改変できます。このレベルの保護は記事のロックではなく— 参加のハードルを上げてそのコンテンツ方針を理解した投稿者にウィキペディアの編集を任せるべきと示します。その場合も他の人はトークページで記事のコンテンツについて議論できます。目的は勢いがつきすぎた物事をスピードダウンさせて思慮深い議論を促し、重要な変更の際には中立性と信頼できる情報源の両方の方針を必ず守ろうと再確認することにあります。
仲裁委員会
一部の最高レベルのウィキペディアでは(英語版ウィキペディアを含む)、経験豊富なボランティア寄稿者を選出した仲裁委員会(仲裁委:ArbCom=Arbitration Committee)を設置しています。この委員会は信頼される編集者で構成し、ときにウィキペディアの〈最高裁判所〉と称するように、ウィキペディアの厳格な方針をこのウィキの寄稿者が遵守するべきかをめぐり、煩雑な紛争に対処します。仲裁委による執行措置はすべて公開で記録し異議申し立てを受け付けるため、透明性と説明責任が担保してあります。
調査研究と改善
3件目として、ウィキペディアが公開である点は学術調査にとって研究の奥深い対象となります。その品質や偏向、コミュニティによる組織統治を題材に、数百件の論文が上梓されてきました。サイト全体のデータは無償で利用できることから、研究者は調査結果の再現、仮説の検証、改善策の提案ができます。このような研究を支持するウィキメディア財団は、課題を特定したり、証拠に基づいた提言を編集者コミュニティに示す上で役立てています。ウィキメディア財団は、これら研究が長期的に百科事典の強化に益すると期して積極的に奨励しています。
扉を開きウィキペディをさらに良くする
層序というものは単一では不十分です。上述の保護のレイヤーは一体となり、強固なシステムを構築してウィキペディアの保護を継続しつつ改善しています。ウィキペディアの核には、ボランティアのコミュニティが位置します。誰もが利用できる無償で信頼できる百科事典という理想を掲げて、論をかわし学びあい、協働により進んでいます。今回の記事でまとめた保護レイヤーを基盤として、これらボランティアの皆さんはさまざまな言語コミュニティごとに方針を特化してさらに発展させています。(ウィキペディアには300超の言語版があります!)
ウィキペディアは誰もが無償で利用できるオンラインの百科事典であり、高価になりがちな紙の書籍版百科事典よりも参照しやすいものです。ウィキペディアは世界で最も信頼できる知識の源の1つとなりました。情報の完全性を守る規準に基づき、公益に奉仕する存在になったのです。これはインターネットにおいて、同規模のプラットフォームで他に類を見ません。
ウィキペディアの目標は情報提供であって、何かを説得もしないし納得させようとも求めません。
読者は全世界に数十億人、支持者は数百万人、ボランティア寄稿者は数十万人がアメリカ全国とすべての大陸から参加しています。ウィキペディアの教育的使命を支えようと、平均およそ15アメリカドルずつ寄付を下さる皆さんは、国や地域として200件超、アメリカの全50州から手を差し伸べてくださいます。これも普通の人々のために設計し、運営するウェブサイトだからです。
ウィキペディアは常に進化を続けています。人類史上、共同のデジタル・プロジェクトとして最大でありつつ、その不完全さを謙虚に受け止めてきました。毎日、ボランティア編集者の皆さんは誰かが間違いを犯しても他の誰かが修正しています。実際にウィキペディアでは過去にどのような誤りが書き込まれ、どう修正されたか記録し共有して、透明性を保っています。編集者の皆さんは議論を重ね慎重に検討して、合意に達するとさまざまな情報源や視点から持ち寄った情報を記事に統合します。それでも記事には変更の余地があり、信頼するに足りる新情報や追加の情報源を待っています。
ウィキペディアをより良くする人であれば誰にも門戸を開いています。調査によると最も質の高い記事とは、寄稿者が最も多く最も多様な視点を得た記事です。個人の皆さんが参加して編集を重ねることこそ、ウィキペディアを改善する最善の方法です。
私たちが歩みを進める時代には情報の正確性がこれまで以上に問われており、ウィキペディアは大幅な信頼を築く上で何が求められるか生きた例を示します。毎日、世界中の人々が頼りにする知識を生み出すそのシステムを実現するものは、オープン性と説明責任、協働であると実証しています。
さて、このシリーズでは前述のシステムを層ごとに皆さんと共有し、ウィキペディアが実際にどのように機能するのか、そして現代の新しい基準を生み出す存在としてどのようにウィキペディアが成り立つのか説明していきます。これらの保護をウィキペディアが採用している点と、そのさまざまな形式を理解したら、オンラインでは信頼に足りる知識は特殊ではなく、未来にはそれが当然だと、現代の誰もが想像を始めるはずです。
